分子生物工学研究グループ
研究内容

当研究グループでは以下に示す研究を行っています。

  1. 糖鎖生産の高効率化および生物材料の化学資源化
  2. 生物発光系を活用したレポーターアッセイ系および分子イメージング技術の開発
  3. 真核微生物を用いた新規タンパク質発現系の開発
  4. 機能性脂質の代謝工学的生産法の開発
  5. 核内受容体活性化の評価による食品素材の機能性解析

1.糖鎖生産の高効率化および生物材料の化学資源化

機能性物質の新規合成法開発

 インフルエンザ特効薬のタミフルは、糖の一種であるシアル酸骨格を基本として、官能基レベルで合成変換し、様々な働きを付加させて開発された薬です。また高分子体であるバイオ医薬品の中には糖タンパク質類も多く存在し、これらの改良後発薬開発には、糖鎖部分の構造均一化や作用機構部分であるペプチド部の自由自在かつ効率的な調製技術を有すること、つまりこれらの化合物の生産(合成)技術の進歩が鍵となります。

 マイクロ波は電子レンジとして利用されていることで広く知られているとおり、一般に物質を加熱する働きをもっています。1986年以来、マイクロ波は化学反応における効率加熱手段としても使われていますが、我々は、マイクロ波の加熱に拠らない効果に注目し、精密合成に対応したマイクロ波利用合成装置の開発、低温冷却中でマイクロ波を利用した糖鎖合成、温度制御した糖ペプチド合成や酵素反応におけるマイクロ波効果研究、生理活性物質の効率ライブラリ合成などを通じて、化学反応に対するマイクロ波の効果を分子レベルで解明を行っています。そして、合成した化合物を、肝炎ウイルスの抗体作製、抗カビシステムの開発、難溶性タンパク質デタージェント開発、創薬などの応用研究に展開しています。

熱化学変換法による木質系バイオマスの糖化反応

 木質系バイオマスの糖化反応は古くから行われており、酸による糖化および酵素による糖化の2つに大別されます。酸による糖化は使用する酸の処理および環境への影響等の問題点があります。一方、酵素による方法は酸糖化に比べ環境負荷が少ないですが、酵素のコスト高および効率化が改善される点としてあげられます。これらの問題点を解決すべく熱化学変換法による木質系バイオマスの糖化反応について検討しています。本手法は水熱反応と有機酸あるいは超臨界二酸化炭素による加水分解反応の2つの過程で成り立っています。水熱反応過程では、バイオマスに高温(250℃)、高圧(9.8MPa)水を接触させ、バイオマスに含まれるセルロース、ヘミセルロース由来のオリゴ糖成分を効率的に抽出します。ここで得られたオリゴ糖成分(複数のオリゴ糖の混合物)は、セルロース等に比べ分解が進行しているため、比較的温和な加水分解条件(<180℃)で容易に化学原料となる単糖(グルコース、キシロース)を得ることが可能です。ここで有機酸の代わりに超臨界二酸化炭素を用いることにより、これまで使用されてきた有機溶媒、固体触媒、酸(硫酸あるいは酢酸)そして酵素を一切使用しないプロセスとなります。また、二酸化炭素を用いるため生成物の分離・回収操作が容易となり、これまでの処理操作(分離精製)が不用となるので、環境負荷低減にも寄与します。本手法は熱化学的反応であり、連続的に操作可能であるため、通常の酵素反応に比べ大幅に反応時間を短縮できます。

カビ増殖をトリガーとした抗カビ活性物質オートリリースシステムの開発

 住環境などでのカビの増殖はアレルギーの誘因となるなど衛生上大きな問題となっています。現在市販されているカビ取り剤はカビを殺菌する作用があるが持続性がなく、また人体や環境に有害です。本システムは、カビが放出する酵素がトリガーとなって、人体に無毒な抗カビ活性物質を必要時に必要量、必要な場所に放出し、カビの増殖を効果的に抑制するものです。これは必要時、必要量、必要箇所で機能する、効率的で環境負荷の低い画期的な抗カビシステムで更に、プラスチック、無機・金属系材料表面などに幅広く適用可能であり、公衆衛生上必要な場所に広く利用可能な、表面材質を問いません。

2.生物発光系を活用したレポーターアッセイ及び分子イメージング技術の開発

 レポータータンパク質を利用したバイオアッセイは、一般に遺伝子の発現を可視化するための技術であり、 タンパク質相互作用解析、プロモーターの機能解析、転写因子の機能解析、遺伝子発現ネットワーク解析などのゲノム創薬を含めたポストゲノム研究における重要な実験技術のひとつとなっています。網羅的な解析が主流となっているポストゲノム時代におけるバイオアッセイでは、ハイスループット対応・高感度・迅速・簡便であることが重要な要件となりそこで、これらの要件を満たした新規ハイスループットバイオアッセイ系を構築することを目的としています。

また、生体イメージング技術は、生きている細胞あるいは個体内での分子動態を量的・時間的に可視化する技術として注目されており、蛍光プローブ及び発光プローブの発展に伴って、生体機能を非侵襲的に画像化する技術は目覚ましい進歩を遂げています。しかしながら、可視化できている生体機能は極一部であるため。そこで、代謝やストレス応答をモニタリングする発光分子イメージングプローブの開発することを目的としています。

酵母ハイスループットレポーターアッセイの開発

 網羅的な解析が主流となっているポストゲノム時代におけるバイオアッセイでは、 ハイスループット対応・高感度・迅速・簡便であることが重要な要件となります。 ゲノムワイドに転写活性を測定するためには、従来のβ―ガラクトシダーゼを用いた レポーター系では操作が煩雑で実質的にハイスループット化が困難です。 そこで我々は、ウミホタル由来の新規ルシフェラーゼを利用し、 高感度で迅速な新規酵母レポーター系を確立しました。 本レポーターアッセイは、従来のβ―ガラクトシダーゼを用いたレポーター系に比較し、 発光を利用するため高感度であり、かつ、細胞の回収や破砕を必要とせず、 基本的に分注操作のみで迅速・簡便に測定可能です。このため、本アッセイ系は、培養から測定まで96穴フォーマットを用いることができ、ラボオートメーションシステムの利用によりハイスループット化が容易に達成できました。本研究は、ライセンス先であるアトー株式会社の他、産総研セルエンジニアリング研究部門などの研究機関との共同研究として進めています。

代謝系・シグナル伝達の可視化法の研究開発

 体内の生理現象は体内のエネルギー代謝、脂質代謝や糖代謝などの多くの代謝システム、及び分子間相互作用・リン酸化等を介して行われている細胞内シグナル伝達システムによって支えられています。この代謝システムおよびシグナル伝達システムを理解し、医工学関連技術に展開するため、それらに関わる分子群の動態を時間的・空間的に捉える分子イメージングする手法の開発を進めています。この目的のために、細胞および個体レベルにおいて、代謝やストレス応答に着目し同時に複数の分子機能のモニタリングを可能とする分子イメージングプローブの開発を目指しています。本研究は、産総研セルエンジニアリング研究部門、北海道大学大学院医学研究科などの 研究機関との共同研究として進めています。

3.真核微生物を用いた新規タンパク質発現系の開発

 真核微生物を用いた発現系は、ヒトタンパク質を生産する目的において、適切な発現が得られる可能性が高い、培養による大量生産が可能、ゲノム情報を活用できる、遺伝子操作などでより高機能なホストの開発が可能、などの利点を有しています。一方、従来の真核微生物発現系は生産量や発現タンパク質の分解などの問題点も指摘されており、そこで、ゲノム情報を活用することによりこれらの問題点を克服した優れた発現系を構築することを目的としています。

 低温は、組換えタンパク質生産環境として、生産タンパク質の不溶化や分解の抑制などの利点を有しています。そこで、低温に強く、人と同じ真核生物である酵母をホストとして用い、ゲノム情報を活用して、 低温に最適化した発現系をデザインしました。この目的のために、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いて 酵母の低温に対する遺伝子発現応答を網羅的に解析し、低温に最適化した発現系の構築に成功しました。さらに本酵母低温発現系の改良を進めるとともに、創薬や産業に有用なさまざまなヒト由来タンパク質の生産に適した微生物を用いた新たな発現系の開発にも取り組んでいます。本研究は、北海道大学、京都大学などの研究機関との共同研究として進めています。

4.機能性脂質の代謝工学的生産法の開発

 ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6)とエイコサペンタエン酸(EPA、20:5)のような 多価不飽和脂肪酸(PUFAs)は食餌による必須栄養素の1つです。これらのPUFAsは冠状動脈性心臓病の危険を減少させて、炎症性の病気を軽減することが知られています。 ある種の微細藻類や海洋性微生物には、これらのPUFAsが非常に多く含まれており、 魚油に替わる供給源として研究が進められています。 そこで、高度不飽和脂肪酸合成関連遺伝子を取得し、 これらを利用した高度不飽和脂肪酸含有脂質の生産法を開発しました。 さらに、代謝工学的アプローチにより、微生物による機能性リン脂質の効率的生産法を目指しています。

 ある種の海洋細菌には、DHAとEPAを合成する能力があることが知られています。 DHA合成細菌及びEPA合成細菌から、脂肪酸の合成酵素(FAS)の一部をコードする 脂肪酸合成酵素遺伝子群(fab遺伝子群)とDHAやEPAなどのPUFAの生合成に必要となる 遺伝子群(pfa遺伝子群)のクローニングに成功しました。 更にPUFA合成系とFASが関わる脂肪酸合成系は独立に機能していることを明らかにしました。PUFA合成に関与する遺伝子群がコードする酵素は、一つのポリペプチド鎖にFASを構成する酵素と相同性を示す活性部位が存在していることから、多機能酵素であることを示していました。海洋細菌に見出されたDHAやEPA合成に関与する遺伝子群は、生物界におけるDHAやEPA の起源、また産業上の利用(例えば遺伝子組換え微生物や植物によるDHAやEPAの生産)を考える上でも重要な遺伝子資源であると考えられます。これまで、PUFA合成に関与する遺伝子群を大腸菌に遺伝子導入することにより、大腸菌にPUFA合成系を付与することに成功しています。また、脂肪酸合成に関与する遺伝子を操作し代謝を改変することによって、細胞内の脂肪酸組成を改変できることを示しています。また、海洋動物、微細藻類及び微生物から機能性脂質・脂肪酸の探索を行っているところです。現在は、特に血管病の治療及び予防とPUFAの関わりに注目して研究を進めています。

5.核内受容体活性化評価による食品素材の機能性解析

 核内受容体は、リガンド(受容体タンパク質と特異的に結合する物質)依存的に遺伝子発現を調節する転写因子タンパク質です。核内受容体は、糖尿病や高脂血症といった代謝異常症、薬物代謝あるいは癌細胞の増殖などに関与していることから、創薬ターゲットとして以前から注目されています。一方、食品分野での機能性評価への応用はまだ緒についたばかりです。本研究は、機能性が期待できる農林水産品をはじめとする食品素材について、核内受容体活性化能を評価することによって、付加価値を付けた機能性食品素材としての可能性を見出すことを目的としています。

 核内受容体が結合するDNA配列下流にルシフェラーゼ遺伝子を繋げたものを培養細胞に導入することで"核内受容体アッセイ"を構築しました。食品素材成分が核内受容体のアゴニスト(受容体との結合により、種々の生理作用を示す物質)であった場合、転写の活性化が起きルシフェラーゼが合成されるため、発光量を定量することで核内受容体活性化量の評価が可能です。これまで農林水産品や薬草及び食品素材などから成分を抽出し、各種核内受容体活性化能を評価しました。このような評価により農林水産品及び食品素材の高付加価値化を図ることが可能となります。また、核内受容体活性化分析のハイスループット化を図るために、より使い易く、より簡便な核内受容体アッセイ法の開発を進めています。


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