バイオデザイン研究グループ
研究内容

天然の糖脂質の性質を理解し、生理活性を有する人工糖脂質をデザインする

 免疫系や神経系の細胞において、糖脂質が細胞機能を制御していることが解明され始めています。我々は主に糖脂質の有する抗原性・免疫誘導活性に着目し、その活用のための研究を進めております。

(1)免疫誘導活性を有する人工糖脂質のデザインとモノクローナル抗体開発への応用

 動物細胞は単糖またはオリゴ糖により修飾されたタンパク質(糖タンパク質)を産生しており、非常に多くの種類の糖タンパク質があることがわかっています。がんや生活習慣病においては特有の構造からなる糖タンパク質が産生されることから、診断用バイオマーカーとしての活用が期待されています。我々はオリゴ糖構造を認識することを特徴とする糖タンパク質検出用モノクローナル抗体の開発を進めており、そのコア技術となる人工糖脂質を用いた免疫誘導法の開発に成功しています。この方法では、抗原性が低いオリゴ糖を抗原性の高い人工糖脂質に加工することで、免疫した動物体内における目的抗体の産生を強く誘導できます。哺乳動物の糖タンパク質に見られるオリゴ糖構造を全てカバーできる広い範囲で特許権利化しており、現在、様々な糖タンパク質に特異的なモノクローナル抗体の開発を進めています。また本技術は、がん特異的な糖鎖抗原を標的とした免疫も誘導できることから、がんワクチンへの応用も検討しています。

(2)細胞・動物モデルを用いた、天然型糖脂質の機能解析と産業応用性の検証

 神経疾患や肥満、炎症など病気に関わるからだの仕組みに、天然型(内在性)の糖脂質が関わることがわかってきています。我々は学術知見をもとに、培養細胞や動物モデルを用いてこれらの糖脂質の産業応用の可能性について検証しています。最近のトピックとして、遺伝性のてんかんの発症に関わるシアル酸を含有する糖脂質が、てんかん治療に用いられるケトン食を摂取させたマウスの組織に増加していることを見出しました。この成果から、てんかんの食餌療法における効能評価指標や有効成分として糖脂質が活用できるのではないかと考え、検証を進めています。

新規有用糖質関連酵素の探索、構造機能相関解析、機能改変

 産業用酵素の開発を目的に、新規有用酵素の探索から機能改変までを行っています。探索には、古典的な微生物スクリーニングだけでなく、環境中の遺伝子資源を直接利用する「メタゲノム」という手法も取り入れています。通常は、こうして得られた酵素は用途に最適な性質ではなく、ファインチューニングが必要です。そこで、立体構造を含めた詳細な解析を行い、構造情報を基にした分子デザインや進化分子工学による改変を行っています。現在は特に、以下のような糖質関連酵素をターゲットに研究を行っています。

(1)セルロース系バイオマス糖化用の酵素

 非可食であるセルロース系バイオマスを酵素で分解するための酵素です。植物細胞壁の主成分であるセルロースを「セルラーゼ」で分解するとグルコースになり(これを「酵素糖化」と呼びます)、バイオエタノール生産やバイオリファイナリーに利用できます。現在、糸状菌由来のセルラーゼ製剤が広く使われていますが、万能ではありません。既存の酵素製剤の弱点を補うような酵素の開発を行っています。平成24年度まで実施された、国内の産学官が連携した、セルラーゼ研究オールジャパン体制のNEDOプロジェクト「バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/酵素糖化・効率的発酵に資する基盤研究」にも研究主要メンバーとして参加しました。

 現在は、NEDOの「バイオマスエネルギー技術研究開発/バイオ燃料製造の有用要素技術開発事業/バイオ燃料事業化に向けた革新的糖化酵素工業生産菌の創製と糖化酵素の生産技術開発」の参画機関として、糖化用酵素の高機能化を行っています。

(2)植物細胞壁のヘミセルロース分解酵素「ヘミセルラーゼ」

 植物細胞壁に存在するヘミセルロース(セルロース以外の構成多糖)は、非常に多種多様な構造をしています。このヘミセルロースを分解する酵素(「ヘミセルラーゼ」と総称されてます)も、様々な構造に対応すべく、バラエティーに富んでいます。当研究グループでは、ヘミセルロースの構造を特異的に認識するユニークな酵素について研究を行っています。糖鎖構造を厳密に認識する酵素は、単一構造のオリゴ糖生産(生理活性物質としてや新規なバイオ素材として期待されます)や、ヘミセルロースの構造解析に非常に優れた研究ツールとなります。糖鎖構造特異的な酵素は、例えるならば、分子生物学研究で広く使用される「制限酵素」のような使い方ができるのです。これまでに開発したユニークな糖鎖構造認識のいくつかの酵素は、オリゴ糖生産や糖鎖構造解析などのツールとして利用されています。

物質循環型社会に貢献する有用物質生産システムの開発―微生物代謝のデザイン

 「ゲノム科学の成果を産業へ応用する」ための研究開発を進めています。糸状菌の二次代謝を主な対象として、①医薬リード化合物、②エネルギーとして利用可能な化合物を生産します。ゲノム情報を基に、必須遺伝子とその制御情報を効率よく解析し、代謝の改変をデザインして、それら有用物質を合理的に高生産するシステムを開発します。また、ゲノム情報に基づいて生物種を識別する方法の開発やその自動化をするとともに、その国際標準化を目指しています。

(1)環境低負荷を目指した有用物質生産技術の開発

 生物の機能の中で「代謝とその制御」に着目し、産業への応用を目指します。2つの物質生産(医薬化学品のリード化合物とエネルギーに変換できる化合物)を、多様な原料から生産することを大きな目標としています。

 糸状菌など真菌の物質生産は、酵母のエタノール、黒麹菌のクエン酸など、既に産業的に高価値なモノも多いですが、真菌は、①多様な原料を使える ②生産量が多い、という長所があり物質生産に必須の生物群です。人類の食経験も長く安全性が確立した麹菌を主対象として二次代謝の研究を確立してきましたが、さらに糸状菌を中心とした真菌が生産する多様な化合物の中から、環境低負荷につながる脂肪酸など炭化水素系化合物から適したものを選択し、それら有用化合物を効率的に生産するための技術をゲノム科学に基づいて開発します。このプロジェクトは、生物システム工学研究グループとの共同で進めています。

(2)生物情報科学の展開

 生物の根幹となる2大情報(ゲノム情報と立体構造情報)を解析する方法を開発しつつ、産業に応用する基盤を構築しています。ライフ分野の実験科学(生化学・X線結晶構造解析)と情報科学(ゲノム解析・構造解析)の両方を並行して進めてきました。幅広い分野の経験を活かして、両者を橋渡しすることで新しい分野の開発につながることを目指しています。古細菌のゲノム解析と由来するタンパク質の解析から耐熱性に関わる要因を解析したのをはじめ、真菌など真核生物を対象とした解析に展開してきました。次世代型シークエンシングも積極的に取り入れ、H24年度の沖縄のプロジェクトで実用的に利用する方法を開発し、さらに基礎的な解析法の開発も進めています。

(3)国際標準化(カシミヤ繊維の試験方法)

 カシミヤと、その偽装に利用されるヒツジやヤクのゲノム情報を基にして、獣毛および獣毛製品より抽出したDNAを用いて動物種を同定するための試験方法を確立し、ISOで国際規格とすることを目指しています。H23年度にNWIP提案をして登録され、H24 年度には委員会原案にまで進めることができました。H26年度の発行を目指して、ISOの会議に出席するなどの活動を進めています。

遺伝子発現のデザイナー:外来遺伝子の発現を思いのままに操るための人工的な転写ネットワークの開発

 転写、すなわちゲノムからmRNAの合成は最も基本的な生物学的過程の一つです。一般的に、細胞は数千に及ぶ遺伝子を発現していますが、多細胞生物の1種類の細胞が発現している遺伝子セットは分化した細胞ごとに異なっています。したがって、転写は、その細胞が発生の過程でどのようにして祖先細胞から分化し、分化状態を維持しているかということと同義であるといえます。近年、たった4つの転写因子Oct4, Sox2, KLF3, Mycによって一度分化した細胞が全能性を持つ幹細胞(iPS)にリプログラミングされるという発見は、基本的に我々は細胞の分化(すなわち遺伝子発現)を思いのままにコントロールしうるということを示していますが、現在のテクノロジーではこれらを制御することはまだできていません。そのためには、転写にかかわる複雑なcis及びtrans因子群の相互作用をより深く研究し、正確に理解する必要があります。例えば、転写装置のエンジンとしての基本あるいはコアプロモーターは真核生物において構造が進化上保存されていることもあり、良く調べられ、記載されてきました。しかし、細胞種特異的な遺伝子発現の原理である、エンハンサーやサイレンサーは広大なゲノム配列の原野の中に埋もれており、ゲノム配列を見ただけではすぐにはわかりません。最近のシーケンス技術の進歩によって短時間かつ現実的なコストで非常に膨大な量のゲノム配列を手に入れることができるようになりました。このような新しい次世代シーケンシング技術、バイオインフォマティックスを活用した比較ゲノム解析により、これまで困難だった制御可能な遺伝子発現や様々な細胞の様々な分化状態において作動しうる人工的な転写ネットワークをデザインし、構築すること、これが我々が目指す未来のバイオテクノロジーとしての「プロモーターエンジニアリング」です。具体的には以下のような研究テーマを現在進めてきています。第一に、次世代シーケンサーを用いた微生物からヒトに至る多様な生物におけるゲノム、特に転写調節領域の比較解析手法の確立。第二に、似て非なるゲノムを持つ近縁種が多数存在する小型魚類メダカをモデル生物とした近縁種比較ゲノム解析による短い双方向性(SAB)プロモーター及び細胞種的(例えば神経細胞)特異遺伝子発現の時空間制御にかかる転写調節領域と制御可能なプロモーターのデザイン。第三に、遺伝子・転写調節領域・転写因子、ncRNAなどゲノムが持つ機能を大規模にデザインし、改変したものを生物や細胞に実装・検証するための技術開発を進めています。

酵母を用いた有用物質生産のための遺伝子発現制御技術の開発

 酵母における有用物質生産のためのタンパク質発現技術は、様々な有用物質生産のために多くの研究がなされ、既に成熟した技術と考えられております。しかしながら、酵母ゲノム中にはタンパク質発現のために重要な技術要素(例えばプロモーターやシグナルペプチドなど)が多数存在しているのにも関わらず、従来のタンパク質発現技術では限られた技術要素のみが利用されております。そこで、高精度なゲノム情報を活用可能な出芽酵母を宿主として、酵母ゲノム中に存在する未利用な技術要素を活用することで、従来よりも優れたタンパク質発現技術を開発し、それらを実際の有用物質生産に応用することを目的としています。

(1)酵母におけるゲノム情報を利用した高効率なタンパク質発現系の開発

 ヒト等の高等生物由来のタンパク質を高効率に生産するため、出芽酵母における低温適応機構を利用したタンパク質発現系の開発を進めています。本システムは、出芽酵母ゲノム情報を利用し網羅的遺伝子発現解析を行うことによって、 低温条件において高い発現量が得られるようデザインしました。本システムを用いて緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させた結果、酵母細胞内における可溶性タンパク質の約50%まで蓄積可能であることがわかりました。さらに本システムの改良を進めるとともに、創薬や産業に有用なさまざまなヒト由来タンパク質の生産に適した新たな発現系の開発に取り組んでいます。

(2)バイオエタノール生産酵母における効率的なキシロース代謝のための遺伝子発現系の開発

 出芽酵母は本来高いエタノール生産能力を有しており、グルコースからのエタノール生産に広く利用されています。一方、木質系バイオマスの糖化液の主成分は、グルコース、キシロースおよびリグニンであり、野生型の出芽酵母ではキシロースからエタノールへの変換能力を実質的に有していません。そのため、出芽酵母を用いたキシロースからのエタノール生産にはキシロース代謝に関わる酵素遺伝子群を導入した遺伝子組換え酵母が用いられており、キシロースからエタノールへの変換効率向上のため多くの研究がなされております。しかしながら、現在のキシロース代謝酵素遺伝子群発現系はそれらの発現量を精緻に調節することはあまり考慮されていません。そこで、酵母ゲノム中に存在する多様なプロモーター等を用いて各酵素遺伝子の発現量を適切に制御することで、出芽酵母におけるキシロースからエタノールへの変換効率の向上のため、技術開発を進めています。また、バイオエタノール生産では、高温や酸性条件など、比較的厳しい条件での高効率なエタノール発酵が要求されます。そのため、自然突然変異によって耐酸性・耐熱性が付与された酵母株の次世代シーケンサーを用いたゲノム解析等を行うことで、耐酸性や耐熱性に関わる有用変異を探索し、バイオエタノール生産酵母に両耐性を簡便に付与可能な遺伝子発現系の開発を進めています。

メタゲノム解析による機能遺伝子の動態解析と未知遺伝子の探索

 複合微生物系の研究は学術的にも産業応用的観点からも未開拓の領域です。これまでの応用微生物学の研究においては、まず微生物を純粋分離して、その後に遺伝子群のクローニングを行ってきました。しかしながら、近年の微生物生態学の研究成果により、環境中における微生物の99%以上は培養できないという事実が明らかになってきました。すなわちこれまで我々が取得、解析してきた遺伝子群は、自然界における1%以下の培養できる微生物由来のもののみであり、実際の自然環境中にはまだまだ未知の分解遺伝子が多様に存在している可能性があります。そこで培養という過程を介さないメタゲノムアプローチにより、培養できない微生物由来の遺伝子も探索の対象とし、環境中における微生物遺伝子の真の姿を明らかにすることを試みています。

 近年、次世代シーケンサーの登場により、誰もが簡単に大規模な遺伝子情報を手にすることが可能となりました。しかし、現在のところ、DNAシーケンス速度のあまりにも爆発的な上昇に、解析の速度と精度が追いついていないような状況も見受けられます。

 そこで、「targeted metagenomics」という手法を用いています。環境ゲノムの全ゲノム解析を行うのではなく、敢えて解析対象を絞り込むことにより、特定の生命現象に対する遺伝子解析の質と深さを増します。加えて、配列という「情報」のみならず遺伝子活性などの「機能」も併せて解析を行います。メタゲノム情報解析の持ち味である壮大なシナリオ展開力と、精緻な実験科学との有機的連携により、その環境における生命現象の実体が解明されると信じています。

(1)環境中の芳香環分解遺伝子群の実態解明

ベンゼン、フェノールなどの芳香族化合物は、化学工業の発展に伴い環境中に放出されてきた。こうした環境汚染物質は、生物にとっては「毒」ですが、驚くことにこれらを「餌」に生きていく特殊能力を身につけた微生物が出現してきました。このような現象は、比較的短いタイムスケールで起きており、難分解化合物の分解機構の解明は、微生物・遺伝子の環境適応機構を探る良い研究材料となります。

 酵素活性に基づいたハイスループットスクリーニングと、メタゲノム解析により、環境中における芳香環分解酵素遺伝子の真の姿を明らかにすることを試みています。また、単に「配列」の解析にとどまることなく、取得した遺伝子群の「機能」も解析することにより、分解遺伝子が環境に適応してきたメカニズムの解明もめざしています。このような現象は、比較的短いタイムスケールで起きており、難分解化合物の分解機構の解明は、微生物・遺伝子の環境適応機構を探る良い研究材料となります。

 酵素活性に基づいたハイスループットスクリーニングと、メタゲノム解析により、環境中における芳香環分解酵素遺伝子の真の姿を明らかにすることを試みています。また、単に「配列」の解析にとどまることなく、取得した遺伝子群の「機能」も解析することにより、分解遺伝子が環境に適応してきたメカニズムの解明もめざしています。

(2)海洋における未知微生物の生態と役割の解明

 海洋にももちろん微生物は存在しています。地上とは違った独自の生態系が存在していますが、その最下層を支えているのはどちらも微生物です。特に、深海の熱水噴出孔や冷湧水域と呼ばれる周辺は、メタンや硫黄、水素などの無機化合物をエネルギー源とする化学合成微生物に支えられた、興味深い生態系が存在します。

 特殊な環境に生存する様々な微生物が物質循環やエネルギー合成でどのような役割を果たしているのか?その鍵となる微生物グループや遺伝子は?環境によって固有な遺伝子パターンや適応メカニズムが存在するのか?これらの疑問を解明するために、環境メタゲノムの「網羅的」な解析を行っています。

 一方で、それらの環境に生存している特定の未知微生物に着目し、その働きの解明も試みています。雑多なメタゲノム配列の中から、バイオインフォマティクスを駆使し、効率的に目的微生物の再構築を行っています。

 これらの研究はドイツのマックスプランク海洋微生物学研究所との共同研究でおこなっています。

(3)効率的なメタゲノムスクリーニング手法・微生物培養法との比較

 メタゲノム研究は、微生物の純粋培養技術の限界によりこれまで獲得できずにいた、未利用な遺伝子資源の網羅的探索を行う手法として大きく期待されています。しかしながら、当初期待されていた程、目覚ましい成果が得られた訳ではありません。標的遺伝子の取得効率が極めて低く(あるいは全く取得出来ないため)、従来の微生物のスクリーニング法と比べて絶対的な優位性を示すことが出来ていないことが理由のひとつです。

 ここで、環境中の微生物遺伝子資源の探索のための2つの方法として、「メタゲノム手法」と「微生物培養に基づく手法」がります。そこで、実際にこの2つの手法で同一の遺伝子の探索を行い、取得した遺伝子を「配列と機能の両面」から比較することにより、メタゲノムスクリーニング手法の問題点を浮かび上がらせ、その改良を行っています。


page top
■ HOME
■ 部門の紹介
■ 研究紹介
■ 研究成果
■ お知らせ
■ その他

生物プロセス研究部門

北海道センター
〒062-8517
札幌市豊平区月寒東2条17丁目2-1
011-857-8537(代)
つくばセンター
〒305-8566
茨城県つくば市東1-1-1 中央第6
029-861-6040(代)