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研究内容

東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 本田研究室は

東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻・本田研究室は、情報分子工学、合成生物学の研究室です。生物物理学、タンパク質科学、タンパク質工学、バイオインフォマティクス、分子生物学、構造生物学、進化分子工学等の横断的理解を基盤として、メディカル分野での活用を目的とした機能性人工タンパク質のデザインやバイオ医薬品関連の基盤技術の開発を進めています。

「わかる」ということ

「理解した」とはどういう状態を指すのでしょうか。医師は「治せること」と言うかも知れません。生物学者は「説明できること」と言うかも知れません。 物理学者は「予測できること」と、化学者は「変えられること」と、工学者は「造れること」と言うかも知れません。そう、立場によって「理解」の定義は変わるのです。そして、私たちにとっての「理解」は工学者の定義になります。ゲノム解析プロジェクトを契機として、現在、生物学は膨大なデータを扱う情報科学に変貌しました。有用なデータを生み出すこと、その意味を解釈すること、それは充分意義ある研究です。しかし、私たちは膨大な情報を手にしても「理解した」気になれないのです。知り得た情報にもとづいて何か新しいものをつくることを試みたとき、意図通りのものが完成したのなら、理解は正しかったと実感できるのではないでしょうか。生命の理解とは、新たな生命を創ってこそはじめて完結するのです。

レオナルド・ダヴィンチのヘリコプターの設計イラスト現代の最新鋭ヘリコプター

「知る」生物学、「操る」生物学、から「創る」生物学へ

膨大な情報をただ眺めていても新たな創造を成すことは出来ません。情報を選別し、吟味し、そこに潜む合理性や普遍性を探り、仮説を立て、論理的な設計図を描き、適切に造形することが必要です。現在、本田研では、生命体の基本素子であるタンパク質に焦点をあて、種々の理論と実験を組み合わせて、自然界に存在しない有益な人工タンパク質の開発や新規な人工細胞の創製を進めています。

「創る」生物学:情報分子工学/合成生物学のコンセプト図

タンパク質の階層性−部分と全体

情報からの創造にむけて、私たちが重要な概念と考えているのが生物が有する構造の階層性です(右欄コラム【普遍性と多様性−構造階層性の果たす意味】参照)。人工タンパク質の系では、システムとしてのタンパク質分子の構造階層性を深く理解することが重要と考えています。構造階層性の理解のための手法として私たちが進めているのが、タンパク質分子を細かく分解する方向(トップダウンサイクル)と分解した要素から組み上げる方向(ボトムアップサイクル)の2つのアプローチを有機的に統合することです。現在、トップダウンサイクルとしては、タンパク質を実験的にフラグメントに分割し、その物理化学的性質を評価する分子解剖研究、公共データベースにある膨大な構造座標データをコンピュータ内で断片化し網羅的クラスタリングする分類学的研究などを行っています。一方、ボトムアップサイクルとしては、複数の要素の組み合わせから有用な新規タンパク質を選び出す進化分子工学的研究、統計言語学を基盤としたタンパク質文法体系の構築とそれにもとづく機能改変研究などを進めています。

タンパク質の構造階層性の理解のための、トップダウンサイクルとボトムアップサイクル

極微小人工タンパク質の設計

トップダウンサイクルで培った知識と技術の検証のため、研究室内の理論チームと実験チームが共同し、従来の常識を超える構造体の設計を試みました。その結果、わずか10個のアミノ酸からなる「最小のタンパク質・シニョリン」の創製に成功しました。これまではタンパク質が安定な立体構造を形成するには、30〜50個のアミノ酸が最低必要であるとの見方が支配的でした。しかし、独自のアルゴリズムで設計したシニョリンは、この下限を大きく下回るにもかかわらず、水溶液中で安定な立体構造を形成し、昇降温に伴い可逆的かつ協同的に変性/再生するのです。この事実の発見は、タンパク質の構造単位に関する従来の認識に修正を促すものとなり、海外の科学専門誌の表紙を飾る論文となりました。また、シニョリンの存在は、生命起源の研究へも大きな影響を及ぼすことから、新聞等でも広く取り上げられました(右欄コラム【シニョリにみる生命の起源】参照)。いずれにしても、この成果は、私たちの情報分子工学のアプローチが有効なものであることを証明するもので、今後の分子設計研究のさらなる進展を期待させるものです。

理論チームと実験チームが共同して、極微小人工タンパク質の創製に成功

> 産総研のプレス発表でさらに詳しく

バイオ医薬−メディカル分野でのタンパク質の利用

ボトムアップサイクルのターゲットとしては、メディカル分野で急速に利用が進んでいるバイオ医薬品、特に治療用タンパク質(pharmaceutical proteins)に焦点を当てています。ゲノミクスの進展に伴い、多くのドラッグターゲットが見出されていますが、そのような流れとともに、タンパク質自身を医薬品として治療や予防に利用する試みが拡大しています。しかし、タンパク質は基本的に不安定な分子であり、また、その生産には大きなコストがかかります。こうした背景から、より安定で、より安価で、かつ安全で効能の高い治療用タンパク質を開発するための新しい発想の技術革新が望まれています。本田研では、これまで蓄積してきた分子デザイン研究のポテンシャルを活かし、これら治療用タンパク質の課題解決のための研究を行っています。

薬剤タンパク質の国内市場は急速に拡大中

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> 産総研のプレス発表でさらに詳しく

 

 

本田研で学べること

本田研では、理論と実験の両面から、さまざまな技術を駆使して研究を進めています。このため、研究室には、生物学をはじめとして物理学、化学、薬学、情報科学などの多彩なスタッフが従事しています。また、実用化を目指した民間企業との共同研究も進行中です。このようなプロの研究者が働く環境で大学院生活を送ることは、広範な知識と技術を習得するための最良の選択になるでしょう。本田研は「遺伝子操作もプログラミングも出来るマルチディシプリンな研究者」への成長を強力に支援します。

<習得できる主な知識と技術>
  • 生物物理学、物理化学、分析化学、タンパク質科学、生化学、分子生物学、統計学
  • タンパク質工学、進化分子工学、抗体工学、組み換えDNA技術、タンパク質発現精製技術、タンパク質構造解析技術、安定性解析技術
  • Unix操作、プログラミング、データマイニング、多変量解析、バイオインフォマティクス、分子シミュレーション
> 主な研究設備

研究テーマ

研究テーマは与えられるものではありません。テーマの選定は、よい研究を行うための大切なステップです。本田研の研究テーマ設定は、まず学生が自ら企画・立案することから始まります。これを研究室メンバーにプレゼンし、意義や実現性などについて議論します。最後に教官と協議し、承認を得ます。最初から適切なテーマ設定ができる学生は稀ですが、そのための第一歩として、背景の正しい理解と充分な調査に自ら努力することが必要です。

<主な研究テーマ>
バイオ医薬品の創薬技術関連
  • 低親和性ペプチドを高親和性タンパク質に変身させる分子創製技術
  • 医療用サイトカインの主鎖環状化による薬物動態向上
  • 薬物動態を向上させるための血清アルブミンバインダーの開発
  • 先回り進化による薬剤耐性菌の耐性メカニズムの解明
  • Manufacturability Assayによる抗体医薬品の候補の早期スクリーニング
バイオ医薬品の精製技術関連
  • 抗体医薬品精製用アフィニティ担体の実用化
  • 次世代抗体医薬品向けのアフィニティリガンドの開発
バイオ医薬品の製剤技術関連
  • IgGの凝集化反応の分子機構の解明と凝集化予測理論の構築
  • 抗体医薬品の保存可能期間シミュレーション技術と保存安定性向上のための製剤技術の開発
  • 実験計画法によるバイオ医薬製剤技術の最適化
バイオ医薬品の品質管理技術関連
  • 物理化学的ストレスを受けた構造劣化抗体を特異的に識別する化学プローブの開発
  • 微量の構造劣化抗体を検出する高感度分析装置の開発
進化分子工学技術関連
  • 進化分子工学による構造と機能の共創出
  • 新規ペプチドライブラリの開発
  • 次世代シーケンサーとバイオインフォマティクス活用によるスクリーニング確度の向上
  • 無細胞合成技術活用による候補分子特定の迅速化
タンパク質工学技術関連
  • 極微小人工タンパク質シニョリンの構造設計
  • アミノ酸配列設計ソフトウエアの開発
  • 自律要素仮説にもとづくタンパク質の安定化改変
  • 自然言語構造を模した人工タンパク質のデザイン
  • 無機能タンパク質のデザイン
  • 自然界に存在しない立体構造を形成する人工タンパク質のデザイン
タンパク質基礎科学関連
  • タンパク質局所構造の多様性解析
  • タンパク質分子の収斂進化の解析
  • アミノ酸配列設計ソフトウエアの開発
  • 新たなバイオインフォツール(クロスプロファイル法)の開発
合成生物学技術関連
  • 酵母の性を転換させる自己倍数化抑制技術
  • ヒト膜タンパク質受容体阻害剤スクリーニング技術

合成生物学

合成生物学は、生物の既知の構成成分(遺伝子やタンパク質)を用いて、それらをより次元の高い階層・ネットワークへと人工的に統合することにより、新規の生物学的機能またはシステムの設計・構築を目指す、新しい科学と工学の融合研究領域です。システムバイオロジーに次ぐ、生物学のトレンドとして現在注目されています。本田研では、細菌を対象とした合成生物学実験を進めています。また、人工タンパク質分子の改良・創製研究も、タンパク質分子という多数の原子で構成されるシステムを対象とした合成生物学であるとして展開しています。

普遍性と多様性−構造階層性の果たす意味

生物は多様です。そして、その多様性のサイズは莫大で未だに不明なことも少なくありません。例えば、この地球上にいったい何種類の生物が存在するかという基本的な問いに対しても、正確な数値は明らかにはなってません。500万種とも3000万種とも言われますが、観察手段や分析方法の進展に伴って、その推定値は増加するばかりです。一方、生物は普遍的でもあります。遺伝子の暗号表は、ほんの一部の例外を除き全生物に共通です。細胞は化学物質で構成され、個々の要素の作動原理に非天然物の物理化学法則と異なるものはありません。生物は多様であると同時に普遍的な実体なのです。そして、この一見背反する二つの属性<<普遍性と多様性>>を併せ持つことが生物の本質なのです。生物というシステムに対する私の基本的な興味は、この普遍性と多様性の関係です。本田研では、この二属性を包括的に理解するためのキーワードとして、生物の「構造階層性」に着目しています。

よく知られるように、生物は多重の構造体を有する存在です。その連なりは、遺伝子から、オルガネラ、細胞、組織、器官、個体、種へと続きます。このミクロからマクロに至るあらゆる実体と事象に、普遍的な側面と多様な側面が織りなして観察されるます。私たちは、このミクロからマクロに至る間の構造の階層性こそが生物の普遍性と多様性を創出する根源ではないかと考えています。一般的に、分子レベルの事象はより普遍的で、個体や集団レベルの事象はより多様です。普遍的な事象は、決定論的で、記号論的で、デジタルな情報を伴っています。そして、この情報を規定するメカニズムに特定の構造が関与しているのです。例えば、遺伝子の複製では、情報は核酸塩基対が相補的な結合を形成することで規定されており、DNAの二重らせん構造がそれを可能にしているわけです。ところで、ここで規定されている情報は、そのままの品質で伝達され続けるわけではありません。ここに書き込まれた情報は、生物の階層性を介して、確率論的で、記述的で、アナログなものへと段階的に変換していくのです。いわば、階層的な構造は、この質的変換を媒介するコンバーターとなっているのです。私たちは、この変換が繰り返されて生物の多様性が増加拡大していくのだと認識しており、従って、構造階層性の理解が生物の普遍性と多様性の関係解明に重要で、かつ多様なシステムを創り上げるための鍵だと考えています。

構造階層性が媒介する生命システムの普遍性と多様性

シニョリンにみる生命の起源

極微小タンパク質・シニョリンの創製は、生命の起源論にも影響を及ぼすものです。地球上の生物の起源に関しては、大別して三つの考え方が存在します。第一は、超自然現象として説明するもので、例えば神の行為を考える説。第二は、地球上の物質の状態変化の結果と考える説。第三は、地球外から飛来したと考える説。一般的には、二番目の化学進化説が支持されています。さらに化学進化説は、生命はタンパク質から始まったとする考えと核酸から始まったとする考えの二つの説に大別されます。後者の説(特にRNAワールド)が現在有力ですが、この説においても核酸とタンパク質が対になって共進化する段階が次に続くとされており、いずれにしてもタンパク質の出現は生命の起源と深い関わりを持っていたと考えられています。

現在、私たちの周りにあるタンパク質は進化の産物です。多くの研究から、突然変異を含むさまざまなメカニズムによって、現在の姿に徐々に変化してきたことが明らかになっています。しかし、遡って最も始めの原始タンパク質がどのようなもので、どのように作られたのかについては全くの謎です。現在のタンパク質より単純でサイズの小さい分子であったと想像されていますが、証拠はまったく存在しません。一般に、生命の誕生以前に非生物的な作用で原始タンパク質が出現した過程を化学進化といい、生命誕生以降にタンパク質が徐々に変化していった過程を分子進化と呼んで区別していますが、本田研で創製したシニョリンの存在は、タンパク質が高度に機能するための不可欠な要件である固有の立体構造と協同的な構造転移という属性を化学進化の段階で獲得し得ることを示しています。

   

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