人の生命や健康にとって水が重要であることはいうまでもない.安心・安全な社会を構築するためには,平常時はもとより大規模自然災害等非常時において被災者の生命と健康を最大限守るため,安全な水を製造・供給する必要がある.平成7年の阪神淡路大震災は,被災直後の数日間飲料水を確保することの重要性を認識させる契機となったが,現時点でもその対策は十分とはいえない.
災害時の場合には地下水の利用などが必要と考えられている.しかし,地下水は有害な硝酸イオンで汚染されている場合があり,そのまま飲料するには適さない.電源,道路などのインフラ等が利用できないこと等を考慮すると,多様な原水から,動力を必要とせず,持ち運び可能で,簡単に操作できる機動的な浄水装置の開発が求められてきた.
産業技術総合研究所(産総研)四国センターにある健康工学研究センター(国分友邦センター長) では,帝人エンジニアリング株式会社(松田勉社長),協和化学工業株式会社(松島慶三社長),阿波製紙株式会社(三木康弘社長),香川大学工学部,鳴門教育大学,香川県産業技術センター,徳島県立工業技術センターおよび,管理法人の四国産業・技術振興センター(STEP)(池田修理事長)との産学官連携により,経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業課題「分離機能性ナノ粒子の非接触複合化による機動的浄水システム開発」を平成18年度-19年度の2年間推進し,このたび非常時に有効な機動的浄水装置のプロトタイプ機の開発に成功した.


非常時用の緊急用浄水装置のイメージ図
この成果は,世界的規模で開催されるハノーバー・メッセ2008(開催場所: ドイツ・ハノーバー,開催期間: 2008年4月21-25日)で公開される.さらに,この研究開発課題は,産総研と四国6大学との包括連携協定に基づく四国共通連携課題としても取り上げられている.
この事業で,成形する前の吸着剤とほぼ同等の吸着性を発現する,新規な硝酸イオン選択性繊維状吸着材を開発したことにより,本プロトタイプ装置は,ろ過−吸着方式の構成が単純で,高速処理が可能なため小型化が実現した.この装置で有害な硝酸イオンを含む井戸水を処理すると,飲料水「適合」の処理水が短時間に,電気ポンプなどの動力なしで得られることを実証した.
今回の地域コンソーシアムプロジェクトで重点的に開発を進めた硝酸イオンの選択的除去について示す.特に,非常時のように緊急を要する場合は,短時間で効率的に安全な飲料水を製造する必要がある.したがって,
(a) 硝酸イオン選択性吸着剤
(b) 選択性吸着剤微粒子を担持した成形吸着材
が不可欠となる.項目(a)の硝酸イオン選択性吸着剤は機能発現の主体であり,その製造にかかる基本的技術は既に産総研・健康工学研究センターで開発していた.しかし,これを実用的に使用する場合,通常は用途に応じて何らかの形状に成形しなければならない.項目(b)に関連して,機能性微粒子の非接触担持・繊維成形にかかる基本技術が帝人エンジニアリングにより開発されていた.本プロジェクトにおいて,硝酸イオン選択性吸着剤微粒子を非接触でポリマーマトリックス内に担持し,繊維状に成形することに成功した.
今回のプロジェクトにより,機動的浄水装置の実用化において重要な技術成果を達成した.
既存の装置としては,主な基本構造として
1) 活性炭のフィルターあるいはカラムからなる装置
2) ウルトラフィルター(UF膜)あるいはメンブランフィルター(MF膜)を用いる装置
3) 逆浸透膜(RO膜)を用いる装置
の3タイプがある.一例として,本プロジェクトで重点的に開発を進めた硝酸イオンの除去を例として比較する.各タイプの長所・短所は以下のようになる.
1) の場合,原理的に硝酸イオンを除去することは出来ない.
2) の場合,これも原理的に硝酸イオンを除去することは出来ない.
3) は,イオンを除去することができる.しかし,この場合,基本的にあらゆるイオンを除去する.硝酸イオン選択性がないため,動力を要し(効率が悪い),イオン組成が大きく変動する場合は健康に好適ではない.
これらの比較を通じて,本プロジェクトで開発した硝酸イオン選択性繊維状吸着材を使用したプロトタイプ機は,硝酸イオンを選択的に捕捉する.さらに,通水抵抗が小さく,高速で通水処理が可能なことから,動力を必ずしも必要とせず,かつ小型化することができる.これらは,非常時用に飲料水を製造するための機動的浄水装置の特徴をなす.
分離機能性微粒子は,目的用途に応じて選択 (必要に応じて開発必要)できることから,本浄水装置は拡張性に優れている.上述した井戸水の他に,原水の範囲を広げることができる.繊維状吸着材の大量製造技術および製造のコストダウン,ニーズ,市場の的確な把握,それに応じた浄水システムの規模,構成,操作性,等商品化に向けた改良・改善が必要になる.今回開発された成果をもとに,帝人エンジニアリングを中心に今後1年を目処に事業化を目指す.
この記事は,2008年4月15日に四国経済産業局プレスクラブでリリースされたものである.
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