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第11回国際毒学会(ICT XI)参加報告

産総研CRM 小林憲弘     

 

2007年7月15日〜19日にかけて,カナダのモントリオールで開催された,The 11th International Congress of Toxicology (ICT XI,第11回国際毒学会)に納屋研究員とともに参加し,ポスター発表およびナノ材料の毒性評価に関する情報収集を行った.ポスターセッションおよびシンポジウムの中で,ナノリスク評価に有用と考えられる研究報告の概要を以下にまとめた.

<ポスター発表>

PM9.306 (299) The effect of nano-sized titanium dioxide particles on pulmonary inflammation in mice 
Savolanien et al. (Finland)

・ ミクロンサイズTiO2(1μm)およびナノサイズTiO2(10 nm×40 nm,球形ではない?)をラットに週2回,3週間にわたって吸入暴露させ,肺の応答を調べた.
・ 測定項目としては,BAL中細胞数,ケモカイン(MIP-2)およびサイトカイン(TNF-α,IL-1β,IL-4,IL-13)などを測定した.
・ ケモカイン(MIP-2)の顕著な増加,および好酸球およびリンパ球の数のわずかな増加が見られた.ナノ粒子の影響と,ミクロンサイズの粒子の影響を比較した場合に,ナノ粒子の影響の方が大きかった.
・ これらのデータから,ナノサイズの粒子の方が,ミクロンサイズの粒子よりも気道に対する炎症反応が強いことが示唆される.

PT7.178 (173) Effect of diesel exhaust particles with high concentration nanoparticles on living body in rats
A. K. Suzuki et al. (国立環境研)

・ 昨年7月に完成した吸入暴露装置を用いて,ラットにディーゼル−ナノ粒子(”DEP-NP”の表記を用いることを演者らは提案している)を3ヶ月間連続吸入暴露させた.
・ この装置の特徴は,φ23〜27 nmで安定した粒径の粒子を3ヶ月以上の長期にわたって連続供給可能としたことである.(φ10〜50 nmぐらいが肺の深部に一番到達しやすいサイズと考えられる.)
・ 吸入暴露によって,体重,心臓,肝臓,腎臓の重量が用量依存的に減少した.しかし,これらの臓器の病理組織学的な所見は示していなかった.
・ 3ヶ月の長期暴露で心電図に影響が見られた(abnormal ECGs).このことから,演者は3ヶ月までの長期の連続吸入暴露を行うことの重要性を強調していた.
・ ディーゼル−ナノ粒子(DEP-NP)を暴露(沈着)させた餌のみを与えても影響なし.DEP-NPを吸入させた場合のみ影響が見られた.
・ 今回の試験の最も大きな意義は,極めて低濃度(15〜136μg/m3)の暴露で影響が見られたことである.過去にミクロンサイズの粒子を用いた暴露実験を行ったことがあるが,ミクロンサイズの粒子の場合は,この数倍の濃度にならないと影響は見られなかった.要旨には示していないが,心筋で酸化ストレスも増加した(心筋をすり潰して測定した).さらに,ナノ粒子には環境ホルモン作用もあるとのことだった.

PW20.378 (373) Effect of the preparation method of MWCNT suspension for intratrachial instillation to rats for pulmonary toxicity study
K. Wako et al.(三菱安科研)

・ 複数の溶媒を用いて,MWCNT(物産ナノテク製)の分散について検討した.次に,最も分散状態の良かった懸濁液(Surfacten®を使用した場合)をラットに気管内投与し,肺の応答を調べた.
・ 1wt%のCNT調整液を,ラット1匹あたり0.5mL/ratで投与した.(投与量5mg/rat). 3匹/群/観察時点で,2,8,29,92日に観察した(観察期間3ヶ月,投与日を1日目とする.).
・ 分散状態の検討では,0.1wt%Tween 80よりも,Surfacten®を用いた方が分散状態が良かった.
・ 細胞数(細胞組成),LDH,およびタンパクの測定結果は,CNT投与群においてわずかな影響が見られた.
・ サイトカインの測定結果は,いずれの観察時点においても,顕著な影響は見られなかった. 
・ CNTを乳鉢ですり潰した場合とそうでない場合の毒性を比較すると,大きな違いはなかった.
・ Positive Controlのシリカ(Min-U-Sil)と比較すると,CNTの毒性は小さかった.シリカでは92日まで炎症反応が継続するのに対して,CNTの影響は29日までしか見られなかった.

<シンポジウム>

S35: Nanomaterials: Evaluating The Benefits And The Risks

1- Product safety of Nanomaterials
R. Landsiedel (BASF, Germany)
・ 主としてBASFのナノ材料の安全性研究の取り組みについて紹介した.
・ BASFでは,UVプロテクト,合成繊維,塗料,サンスクリーン,高分子などの用途にナノ材料を使用している.
・ BASFでは,短期の吸入暴露試験(鼻部暴露)を行っている.これらの試験においては,常にナノサイズの粒子とミクロンサイズの粒子を用いて,それらの影響を比較している.
・ TiO2の試験では,軽度の炎症反応が認められたが,これらは回復性のある変化であった.
・ 毒性の強さのランキングは,quartz>nano-TiO2>micron-TiO2の順序であった.

2- Toxicity of carbon nanotubes and other Nanomaterials
C-W. Lam (NASA, USA)
・ 発表内容はCNTの毒性研究に関するレビューだった(SOT2007での発表内容とほとんど同じ).
・ MWCNTは自然起源の燃焼によって生成する.自動車排ガスにも含まれている.
・ CNTは肺に対して炎症,肉芽腫,線維化を引き起こすポテンシャルを持っている.
・ SWCNTの毒性はシリカよりも強い.毒性の強さをランキングすると,CNT>quartz>TiO2と結論できる.
・ 燃焼により生成したCNTは,循環器系の疾患を引き起こす大気汚染物質として重要な役割を果たしている.
・ 発表後,会場から,「CNTの毒性が強いという結果が得られたことは,CNTに含まれている不純物(鉄など)の影響ではないか」との質問があったが,演者は「不純物がある場合も,ない場合も毒性が強い」と回答し,不純物の影響ではないことを強調した.

3- Assessing the effects of dermal exposure to Nanomaterials
N. Monteiro-Riviere (North Carolina State University, USA)
・ 主として著者らが行っているナノ材料の経皮暴露試験(MWCNT,Quantum dot (QD),およびフラーレン)について報告.
・ MWCNTを用いたskin penetration test(皮膚透過性試験)では,MWCNTは細胞中の液胞(vacuoles)に存在し,IL-8の放出を引き起こした.
・ QDを用いた皮膚透過試験では,暴露後8時間で,stratum granulosum intercellular spaceにおける粒子の存在が認められた(TEMによる観察).
・ これらの試験結果から,ナノ材料は皮膚を通過し,皮膚細胞と生物的な相互作用を引き起こすことが示唆された.

4- Carcinogenicity of Nanomaterials, is it specific to nanoscale?
H. Tsuda (名古屋市立大)
・ 我が国では,ナノ材料のR&Dの資金に対して,リスク評価の研究資金が非常に少ない(米国およびEUと比較して).また,ナノ材料の慢性毒性および発がん性に関するデータは全体的に不足している.
・ CBとTiO2は雌ラットに対して,肺腫瘍を引き起こす十分な証拠がある(ナノサイズとミクロンサイズともに).したがって,これらの粒子の発がん性に,100nmの”boundary”は関係ない.
・ ナノサイズの重金属,CNT,フラーレンは,炎症を引き起こし,活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)を生成することが報告されているが,大部分のナノ粒子の慢性毒性および発がん性に関するデータはほとんどない.
・ ナノ材料の開発に先駆けて,リスク評価の研究を急ぐ必要がある.

以上


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