TN48 水素同位体の分析法

 

内容の要約

  これまで水素同位体、特化HD(軽水素と重水素が結合した分子)の定量分析化はもっばら重水素専用の質量分析計が用いられてきた。しかし、本装置は高価であり、かつ高変の真空を要するので、測定化は専門的な技術を必要とするなどの難点がある。

  一方ガスクロマトグラフィーは操作が簡単であるため、これによる水素同位体の分離分析法が検討された。この方法の欠点は、(1)分析化数分ないし十数分を要する。(2)検出限界ほ0.1%程度で天然存在比(0.015%)に近い低濃度HDの分析ができない。(3)キャリヤーガスと試料中化合まれる空気成分が分離カラムK吸着蓄積され、分離効率が変わり分離成分の検出感度が徐々化変化する、ことなどである。

  本法でほこれらの欠点の改良を検討し、HD濃度が低い場合は水素キャリヤーガヌーモレキュラシープ(室温)法を、高濃度HD及びD2(重水素)は水素キャリヤーガス一括性アルミナ(−1950℃)法を組み合わせることにより、重水素のほぼ全領域にわたって短時間に分析することが可能であることを示した。

 

詳しい内容

 

 1 試薬及び装置

 (1)試薬

  HDはMerck社製重水(99.75g)を蒸留水で希釈し、噴流型閉鎖循環装置を用いて白金触媒存在下で水素と反応させて調製した。HD濃度は化学平衡式より算出した。

  D2は昭和電工(株)製を使用した。H2、HD、D2混合ガスは、H2、D2を真空装置を用いて混合し、これを白金触媒に接触させて調製した。HD濃度ほ同じく化学平衡式より求めた。

 (2)装置

  ガスクロマトグラフは島津GC−5A型(熱伝導度検出器、タングステン−レニウムフィラメント、100オーム)である。2の(1)の実験では分離カラムはモレキュラシープ13](60〜80メッシュ)、4mmφ×2mを用いた。カラム温度は38℃、検出器温度は900℃である。キャリヤーガスは市販水素を日本純水素(株)LW−06SC型水素精製装置で精製することにより得られた超高純度水素を用いた。

  2の(2)の実験では分離カラムは、タケダ化学製ガスクロマトグラフ用活性アルミナ(60〜80メッシュ)、4mmφ×1mを用い、カラム温度を液体窒素温度(-195℃)とした。キャリヤーガスは上述した起高純度水素及びヘリウムを用いた。ヘリウムの場合は分離カラムの後に550℃に加熱した酸加銅一酸化クロムカラムを取り付け、試料水素を水蒸気として検出した。

 

 2 結果と考察

 (1)天然存在比に近い低濃変HDの迅速分析

  従来、HDの分析に当たっては、HDの濃度が′小さい場合でも液体窒素で冷却されたモレキュラシープ七分離分析されてきた。しかし、表1に示すように、水素中の重水濃変が5%以下では化学平衡状態におけるHDへの変換率は97%以上で、D2は実際上無視できる濃定である。従って通常の分析ではこのような低濃度試料についてHDとD2とを分離する必要はない。そこで本方法では常温で水素をキャリヤーガスに用い、HDのみを熱伝導度検出器(TCD)で検出した。結果を図1に示す。従ってこの方法はHD含量(5〜0.01)%の試料の分析に適用でき、低濃度水素同位体分析法として有用と考えられる。検量線に使用された標準試料のHD濃度は計算で求めたが、実際にはD2Oの希釈に用いられた蒸留水並びに交換反応に使用された水素中にほ天然存在比で存在するHDが含まれるため、極低濃度の分析の場合には補正が必要である。しかし、今回の濃度範囲ではこの補正は行わず添加法としての定量性を確認できた。

 (2)D2、HD混合ガスの分析

  従来、水素同位体混合ガスの分析には液体窒素温度下、アルミナカラムにより吸着分離する方法で行われてきた。この場合、キャリヤーガスとしてヘリウムを用いてきたが、ここではこれを水素に置き替えることにより、ヘリウム法による短所を解決することができることを見いだした。ヘリウムキャリヤーガスでは括性化温度に対して保持量が敏感に変わるが、水素キャリヤーガスではほとんど影響をうけなかった。後者の場合、キャリアーガスの水素が、活性アルミナの強い吸着点をつぶすためと考えられる。次に試料の注入量を替えた場合のクロマトグラムを図2に示した。アルミナは250℃で活性化したものを用いたが、ヘリウムキャリヤーガスでは試料量が減少するに従い保持量が増大した。この場合常磁性イオンを担持させたカラムを用いればクロマトグラムの対称性ほ増すが、カラムの調製が難しく再現性がない。一方、水素キャリヤーガスではHD、D2のピークは完全に分離し形も対称的でティリングも起こさず、試料量の違いによる保持量のずれのない理想的なクロマトグラムが得られた。また図3に見られるようにD2の検量線は原点を通る良い直線性を示した。D2とHDのピーク高さ比は流速140〜310ml/mmの範囲内では一定値を示し、キャリヤーガスの流速が変化しても相対モル感麦(ピーク高さ比)が変化しないことを示した。本法では図4で示すように水素キャリヤーガス流速を約300ml/mmにした場合、ほぼ1分の短時間で分析を終了することができた。

 

 特長

  従来、水素同位体の分析には、質量分析計あるいほガスクロマト法が用いられてきた。しかし、前者は高価でかつ専門的技術を要し、後者ほ簡単ではあるが精度上問題があった。この研究では、後者の方法に改良を加えて、充分な精度で、かつ短時間に行い得る方法を確立した。

 

応用分野

  水素同位体を使用する工業、あるいは研究の諸分野。

 

特許

  重水素分析力法及びその装置 (特) 942709

  重水の定量分析法及びその装置(特願)56−126008

 

表1 D2の影響
混合物中のガス量変換率
反応前反応後
D2(%)HD(%)D2(%){(1/2)HD+/D2
59.70.150.97
11.980.010.99
0.10.19980.00010.999
↑H2+D2⇔2HD



図1 低濃度HDのガスマトグラフィー
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図2 試料注入量を変化させた場合
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図3 D2の検量線
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図4 分析時間の一例
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