TN46 石炭の迅速工業分析法(熱天秤法)

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内容の要約

 現在、北海道工業開発試験所では石炭液化研究の一環として、内外の石炭の液化反応特性について研究を進めている。この研究の過程で各種液化用原料炭の水分、揮発分および灰分などの工業分析を行ったところ、オーストラリア、カナダおよび中国産の比較的低石炭化度の石炭の多くに、揮発分の測定の際に試料の飛散する現象が見られ、アルコール湿潤または錠剤成形などの予備操作が必要であった。

 石炭の工業分析を迅速化しようとする試みは他にも多く見られるが、本研究は現行のJISM8812に基づく工業分析法に対応した分析法としての熱天秤による工業分析の実用性、および予備操作を必要とする褐炭はもとより瀝青炭(の一部)までの広範囲の石炭の工業分析に対する適用性などについて検討したものである。

詳しい内容

 1.実験方法

 熱天秤を用いた工業分析法の実験装置として、理学電機製高温型熱天秤を用いた。はじめに熱天秤法の最適条件を定めるために試料量、昇温速度、保持温度、保持時間および雰囲気などの測定条件について検討した。これは、あらかじめ、JIS M8812の工業分析法で分析した石炭数種を選び、試料量、保持時間などについて種々の条件下で熱重量減少を測定し、JIS法で求めた値と比較検討する方法で行った。

 2.実験結果

 (1)熱天秤法における測定条件の検討

 熱天秤法における測定条件については、図1に示したように温度パターンを六つのステップに分け、昇温速定、保持温度、保持時間、雰囲気、試料量などについて検討した。

 昇温速度については、本研究の結果から100℃/o程度が高水分含量、高揮発分含量の低石炭化生炭に適当な昇温速度であることが明らかとなった。水分測定のためのステップ3の保持時間については、10〜20分の範囲で変化させたところ、高水分含量の低石炭化度炭については重量減少が一定となるため15分程度を要することが明らかとなった。揮発分測定のためのステップ5の保持時間、つまり空気導入の時期については1〜8分の範囲で変化させ、JIS法による揮発分含量および固定炭素含量と良く合致する保持時間4分を選定した。固定炭素測定のためのステップ6における燃焼用ガスとしては空気を用いた。このためガス流量は140ml/oとした。また、前段の窒素およびステップ6の空気のガス流通は、試料ホルダー上方から40ml/o、下方から100ml/oで前述のように総量140ml/oとした。この場合が熱重量曲線のドリフトも少なく、ステップ6の固定炭素の燃焼も良好に進行することが明らかとなった。試料量は10〜30r程変の間で変化させ、本研究で用いた装置については20r程度が飛散がなく、繰返し精度も優れていることが明らかになった。以上で検討し、選定した測定条件は図1の下段に要約して示したとおりである。



図1 熱天秤法における昇温パターン
TN46F1.gif
StepHeating rate
(℃/min)
Iso.temp.
(℃)
Iso.period
(min)
Atmosphere
1-255Nitrogen
2100--Nitrogen
3-11015Nitrogen
4100--Nitrogen
5-9004Nitrogen
6-90016Air
Sample weight: 20mg
Flow rate of nitrogen and air: 140ml/min

 

 このように、ステップ1〜3において減少した重量が水分で、ステップ4と5において減少した重量が揮発分である。ステップ6で重量が減少しているのは、試料中に残っていた固定炭素が燃焼したものであり、この減少した重量が固定炭素である。最後に残った重量が灰分である。このように現行のJIS法では水分、揮発分、灰分の各含量と試料量の差として求めていた固定炭素含量を直接定量できることも熱天秤法の特徴のひとつである。

 (2)熱天秤法により測定した内外液化用原料炭の工業分析値

 以上の測定条件で熱天秤法により内外液化用原料炭の恒湿試料について測定した工業分析値をJIS法で求めた結果とともに表2に示した。JIS法で測定した揮発分のうち、PA、PTと書き加えてあるのは、試料が飛散したため予備操作を行った分析結果を示しており、PAはアルコール湿潤、PTはアルコール湿潤しても飛散が抑えられず錠剤成形を行ったことを示している。太平洋炭のように飛散しない石炭、およびワンドアン炭、エッグレイク炭、ワバマン炭、月生利炭、黄県炭ならびに山霍林河炭のように飛散した石炭についてもJIS法および熱天秤法の両法で求めた分析値は良い一致を示している。両法で求めた分析値における差は、多くの場合1%前後であり、ほぼ許容できる偏りといえる。しかし固定炭素において最も大きい場合が認められ、最大2.8%(新夕張炭)、次いで揮発分の最大2.0%(山霍林河炭)、水分および灰分ではともに最大1.4%(水分:ヤルーン炭、灰分:新夕張炭)である。
赤字部分は月へんに生、青字部分は山かんむりに霍と書いた中国漢字)

 

表2 熱天秤法とJISの比較(数字は湿度75%、室温でのwt%)
CoalMoistureVolatile matterAshFixed carbon
JISTGJISTGJISTGJISTG
Yallourn Coal111.610.245.547.12.12.840.840.0
Wandoan Coal16.55.237.9(PT)36.922.322.933.335.0
Liddell Coal12.32.130.731.219.720.847.345.8
Egg Lake Coal211.212.033.3(PA)32.512.813.442.742.0
Wabamum Coal211.110.429.5(PA)29.016.917.942.542.7
Battle River Coal211.911.734.733.410.110.342.344.7
Shori Coal313.312.433.1(PT)33.614.314.939.339.1
Koken Coal310.010.135.9(PT)36.710.111.244.042.0
Karinga Coal39.99.837.6(PT)39.68.38.744.241.9
Taiheiyo Coal44.94.846.445.49.210.039.539.8
Shin-Yubari Coal41.30.933.635.49.811.255.352.5
*1豪州炭*2カナダ炭
*3中国炭*4日本炭

 

 図2は、熱天秤法とJIS法とで測定した工業分析値の相関を図示したものである。灰分、水分および揮発分の相関係数はそれぞれ0.998、0.988および0.977であり、そのY切片の絶対値は0.27%から0.68%と原点に近いところから、熱天秤法はJIS法と高い相関性を有するものと考えることができる。



図2 熱天秤法とJIS法の相関
TN46F2.gif

 3.考察

 このように熱天秤を用いる工業分析法は褐炭から瀝青炭までの広範囲の石炭に適用でき、試料量も20r程度と微量で、測定時間も1時間弱に短縮され、また固定炭素含量を直接定量できるなど、今後試料量の検討なども含めて実験回数を重ねることでJIS法と同程度の信頼性を有する工業分析法となり得るものと考えられる。

 特長

 石炭の工業分析について、これの迅速化を計るひとつの手段として、熱天秤による方法を検討した。その結果本研究で試みたような適切な条件を用いれば可能性であることを示した。

応用分野

 石炭の工業分析。