TN33 低温下で活性の高い脱窒菌

問い合わせる ひとつ前に戻る 技術資料集の入り口に戻る

内容の要約

 廃水の窒素除去技術は、生物学的脱窒法と物理化学的脱窒法に大別されるが、生物学的脱窒法が有望とされ、我が国でもいくつかの実プラントが稼動している。生物学的脱窒法は、従属栄養菌(BOD酸化菌)により有機態窒素から生産されたアンモニアを、硝化菌が好気的に亜硝酸さらに硝酸まで酸化する硝化過程と、脱窒菌が嫌気的に硝酸又は亜硝酸から窒素ガスまで還元する脱窒過程から成っている。

 脱窒菌は、pH、C/N比、炭素源の種類、溶存酸素、温度等の環境因子に大きな影響を受けることは、従来から良く知られている。脱窒に影響を及ぼす環境因子のなかでは、水温の低下が実用上特に重要な問題である。一般に脱窒菌の最適温度は25〜30℃であるとされている。また脱窒の活性化エネルギーから、脱窒槽の温度依存性が高いことも知られている。したがって寒冷地の冬期における生物学的脱窒法は、脱窒菌の活性低下により実施は困難であるばかりか、低温下での脱窒菌に関する基礎的なデータも少ないのが現状である。

 我々は、寒冷地における冬期の生物学的脱窒法を、より効率よく行うことを目的として、低温下でも活性の高い脱窒菌を探索することから研究を始めた。

 低温下で活性を示す脱窒菌の探索と分離菌株の同定を試みるとともに、分離菌を用いて、環境因子の脱窒への影響を検討し、次の結果を得た。

 1)水田土壌から分離した5℃で脱窒能を示す菌株のなかで、活性の高いN−1株を得た。この菌は、細菌分類書の記載と、その性質がよく一致したが、未調査の性質もあり同定までには、さらに詳細な検討が必要と思われた。

 2)脱窒活性におよほす環境因子を調べたところ帥C/N比3.5付近が最適で、炭素源としては、酢酸、クエン酸、グリセリン等が優れていた。水温は25℃付近で脱窒活性が高く、低温になるに従って、中間体としてのNO2-−Nが蓄積するようになった。供試菌は5℃で、約0.0140〜0.0210mgNO3-−N/r Cell/hrの脱窒活性を示した。

詳しい内容

 1. 実験材料と実験方法

 (1)脱窒菌の分離

 農水省北海道農業試験場の水田の土壌を採取し、5℃で集積培兼を行った。

 (2)脱窒試験

 脱窒試験は回分系で、2つの方法によって行った。一つは、BODテスターにより、N2ガス発生量を測定する方法、他の一つは、培養液を経済的にサンプリングしてNO3-−NとNO2-−N を測定する方法である。実験に用いた装置は第1図に示した。反応液を嫌気条件にするため、滅菌流動パラフィンを重層した。反応槽は恒温水槽に入れて温度を一定にした。N2ガス発生量の測定は同図に示すように、発生ガス中のCO2をソーダライムで除去した発生ガス容量をマノメータによって測定した。CO2を除去した発生ガスをサンブリングしで、モレキュラーシープ5Aカラムを用いたガスクロマトグラフによって、事実上、N2ガスが100%であることを確認した。

 2実験結果と考察

 (1)分離菌株の同定

 5℃で脱窒活性を示す分離菌株のうち、N−1株が最も高い脱窒能を示したので、この菌株を用いて次の実験を行った。写真は、N−1株の電子顕微鏡写真であるが、樺桿菌で極毛を持つことがわかった。N−1株の性質は第1表に示した通りで、細菌分類に記述されているPseudomonas Fluorescensの性質によく一致していた。N−1株の最適生育温度は25℃付近にあり、また生育pH範囲は5〜10で最適pHは8付近であった。

 (2)N−1株の脱窒能に対する環境因子の影響

 (イ)C/N比の影響

 グルコースを炭素源とした基本培地を用いて、C/N比の影響を検討した。脱豊能はN2ガス発生量を測定して求めた。15℃におけるC/NとN2ガス発生量の関係は、従来言われているように、C/N比2以下ではN2ガス発生量が少ないことを示した。

 (ロ)炭素量の影響

 C/N比3.5、pH7.7の条件で、改変培地に8種の炭素量を加えて脱膣能を比較した。15℃におけるN2ガス発生量を測定した結果、酢酸、クエン酸、グリセリンなどの時にはN2ガス発生量は多かった。

 (ハ)温度の影響

 酢酸を唯一炭素源とした改変培地350mlを用いて、温度を5、10、15、20および25℃の5段階に設定して、各温度における脱窒試験を行った。反応過程において経時的に、注射器でそれぞれの試料をサンプリングし、液中のNO3-−N、NO2-−NおよぴO.D.値を測定した。5℃では脱窒の過程で、液中に中間体のNO2-−N が著量に蓄積したが、水温が高くなるにつれて、NO2-−N の蓄積はみられなくなった。乾燥菌体重量当たりの脱窒活性を求めるために、O.D.値から乾燥菌体重量(mg)の値を求め、5℃における脱窒活性を計算すると、約0.0140〜0.0210mg NO3-−N/r Cell/hrとなった。一般に知られている脱窒菌の5℃での脱窒活性は0.0080rNO3-−NrCell/hr以下であるから、本菌の脱窒活性は一般の脱窒菌に比べてかなり高い値であった。しかし、本実験は回分系で行ったもので、さらに正確な脱窒活性を求めるためには、連続系での成績を求めることが必要であろう

 3 亜硝酸態窒素の影響

 5℃およぴ10℃における脱窒反応の過程で、代謝中間体であるNO2-−N が多量に存在すると、NO3-−N の減少速度に影響を及ぼすか否かを検討するために、脱窒反応過程でのNO2-−N添加の影響を調べた。その結果、5℃においても、10℃においても、脱窒反応過程でのNO2-−Nの添加は、その後のNO3-−N減少速度に影響をおよぼさなかった。しかし、硝酸塩培地と、亜硝酸塩培地において、5℃、10℃およぴ25℃での脱窒試験を行うと、5℃においては反応開始時からNO2-−N が存在すると、顕著な阻害を与えることが示唆された。

 5℃と10℃におけるN−1株の好気的な生育に及ぼすNO2-−N の影響について調べた結果、10℃におけるN−1株は7mM(ミリモル)以下のNO2-−N の添加では生育抑制を受けず、10および12mMの添加でも顕著な生育阻害は現れなかった。しかし、5℃では、2および5mMの添加で生育の遅延が始まり、10mM以上の添加では大きな生育阻害を示した。この実験により、N−1株に対するNO2-−Nの生育阻害は、低温において顕著に現われることがわかった。

 特長

 廃水の脱窒技術として、生物学的方法が優れているけれども、低温に弱いことが欠点とされている。ここでは菌種の探索を行ない、低温下でも活性の高い脱窒菌を見出し、その特性を検討した。

 このことは、北海道などの寒冷地における廃水処理技術として有用である。

応用範囲

 寒冷地における下水道、農林水産加工場等の排水処理技術



第1図 実験装置
TN33F1.gif

N-1株の電顕写真
TN33F0.jpg

 

第1表 N-1株の性質
ShapeRod
Gram-stainnegaive
Motility+
FlagellationPolor multitrichous
Oxidase+
O.F testoxidative
Pigments
  Ps. F agar+
  Ps. P agar-
Carbon sources for growth
  L.Arabinose+
  Surcrose+
  Propionate+
  Butyrate+
  Sorbitol+
  Adonitol-
  Propylene glycol+
  Ethanol+
  Glucose+
  Trehalose+
  Meso-Inositol+
  Geraniol-
  L.Valine+
  βAlanine.Valine+
  DL.Arginine+