TN17 オゾンによるバイオハザード防御装置

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内容の要約

 近年、分子生物学や遺伝子工学なとの発展にともない、遺伝子組換え技術を駆使した研究により、自然界に存在しない遺伝子をもった生物を作るといった研究が盛んに行われるようになっている。それに伴って、これまで存在しなかった病原性微生物を作り出す危険性も増大しており、そのため、この遺伝子組換え実験には内容に応じて徹底したバイオハザード防御対策が求められている。

 したがって、その対策として最近では安全キャビネットの使用や、実験室そのものに安全対策設備を備えたP3、P4レベルの実験室(組換えDNA実験指針、内閣総理大臣、昭和54年8月27日付)の使用が義務づけられている。

 ところで、現在バイオハザード防御施設で用いられている滅菌、消毒法は、実験器具や廃棄物については高圧蒸気法、排水については煮沸(130℃)法であり、また、安全キャビネットや安全実験室の滅菌、消毒に関してはホルマリンくん蒸法が指定されている(組換えDNA実験指針)。しかし、これらの方法は後述するように一長一短があり、必ずしも満足すべきものではない。

 本研究者らは、永年オゾンについての研究を進めてきた関係からこのような欠点を克服すべく、操作が簡単で効果的な新しいバイオハザード防御装置の開発を試みた。オゾンはバイオハザード因子に対する滅菌、分解力が優れている上に、空気と電力から容易に製造することができ、しかもその制御が簡単であり、これを用いて滅菌、分解すれば大気系、水系いずれにおいても自動化が可能で操作が簡単であること、残留オゾンは活性炭で除去することが可能であり、大気を汚染しないこと、及びオゾンはガス体であるため紫外線と異なり滅菌、消毒されない部分を生じることがなく、また容器の中に封じ込めてある試験体を損う恐れがないことなどの点に着目し、この技術を開発した。

詳しい内容

 1.従来技術

 先に述べた高圧蒸気法は小型のものには適用しうるが、大型のものには適用が困難で、その上試験体を封じこめてある容器の滅菌、消毒には不適当である。また排水の煮沸法についても、少量の場合にのみ使用可能で、多量の場合は使用しにくいという欠点を有している。

 一方、安全キャビネットや安全実験室内をホルマリンくん蒸するには、くん蒸装置を別途持ち込む必要があって簡便ではなく、しかもホルムアルデヒドの或滅菌、消毒力が比較的強くないために、ホルムアルデヒド7000ppmに60分間さらすという高濃度、長時間の処理が要求される。さらに滅菌、消毒後のホルムアルデヒドは多くの場合は大気に放出されており、このことはホルムアルデヒドの有毒性の点から問題があり、また仮にホルムアルデヒドを水に吸収させて除去するとしても、その排液の処理が再び必要となって煩雑である。

 また、補助的な滅菌、消毒として併用されている紫外線照射は、物体の陰の部分に対して有効ではなく、しかも試験体を封じ込めている容器がガラスであれば、試験体を破壊する恐れがあるなどの欠点を有している。

 2.オゾンによる方法

 この方法は、安全キャビネット又は安全実験室の空気導入口にオゾン発生部を直結して、高濃度のオゾンガスを該キャビネット又は実験室に導入し、その中のバイオハザード因子を滅菌、分解しうるようにするとともに、該キャビネット又は実験室からの排水を処理するための排水処理部にも別途該オゾン発生部からの高濃度のオゾンガスを供給し、排水中のバイオハザード因子を滅菌、分解しうるようにしたものである。

 このバイオハザード防御装置は、分子生物学や遺伝子工学などにおける遺伝子組換え技術の駆使によってできた組換え体のもつ危険性や、あるいは病原性微生物特にウィルスなどによって生ずる危険性の排除を対象としており、したがって、従来の滅菌法の概念を越えた強力な滅菌、分解による防御装置である。

 すなわち、従来の病室、医療器具等の消毒、滅菌処理においては、実質上、有害作用が認められなくなる程度に細菌の作用が弱められればよいので、オゾンを用いる場合でも30〜40ppm という低濃度のものを用いれば十分であり、それ以上の濃度のものはむしろ保健や環境汚染の点で好ましくないとされていたが、バイオハザード防御装置においては、バイオハザード因子の細胞膜やエンベローブ、カブシドが破壊されて中にある遺伝情報を有するDNAが破壊され、しかも破壊されたDNAが再生不可能になるまで処理しなければならないため、100ppm以上という高い濃度のオゾンを用いることが必要である。

 オゾンは、バイオハザード因子に対して、従来用いられているホルムアルデヒドに比べて優れた滅菌、分解、不活性化力を有している。例えばタバコモザイクウィルスの核酸の場合、オゾンの不活性化力はホルムアルデヒドのそれの約1000倍に近い。

 一方、ホルムアルデヒドによる遺伝子の不活性化メカニズムについては、核酸の中のグアニン、シトシン、アデニンなどのアミノ基がホルムアルデヒドによって、モノ又はジメチロール誘導体に変化することが知られているが、このように単に核酸塩基がその類縁体に転化した程度では、修復酵素により修復されて元の活性を再現する可能性があることが現在判明している。

 本研究者らはオゾンによるDNA破壊メカニズムについて検討した結果、その破壊がグアニン塩基を中心とするものであること、すなわち、グアニンは4ないし5程度の二重結合の開裂からさらに数種類の化合物に分解し、またチミンも同程度の速さで分解し、遂には分子鎖切断に至るとの知見を得た。

 このようなオゾンによるDNA破壊メカニズムではDNAの修復は不可能で、したがってバイオハザード防御対策にオゾンを用いることは、殺菌、不活性化の速度と効果において極めて有効であるといえる。

 本装置においては、オゾン発生部から直接供給される100ppm以上の高濃度のオゾンガスを密閉系の安全キャビネット又は安全実験室に通ずることによって、空気中に浮遊するバイオハザード因子や、粘着、固着しているバイオハザード因子を容易に滅菌、分解することができ、従来の高圧蒸気、ホルマリンくん蒸、紫外線照射を用いたバイオハザード防御装置よりもはるかに効果的な装置である。

 さらに、本発明装置においては、安全キャビネットや安全実験室からの排水に上記のオゾン発生部からの高濃度オゾンガスを通じることによって、その中に存在しているバイオハザード因子を効果的に滅菌、分離することができる。

 なお、安全キャビネット又は安全実験室及び排水処理部での処理に用いられた後の排気ガスは、オゾン除去部に送られ、ここで活性炭と接触して残存オゾンが除去され、実質上無害な状態で大気中に放出される。第1図はこの方法の実施例を示すものである。

 特長

 遺伝子工学の研究は今後ますます広く、深くなって行くであろう。それに伴なって、研究室の安全管理の問題は極めて重要である。

 この研究は、従来の滅菌、消毒法にかわってオゾンを使用するもので、諸種の実験によりその効果を確認した。のみならず、実際使用面においても、従来法に比べて多くの長所を有することも認められた。よって今後十分実用に供し得る方法であると考える。

応用分野

 分子生物学、遺伝子工学などの研究室の防御装置

特許

 ○オゾンによるバイオハザード防御方法(特願)56−133849

 ○バイオハザード防御装置(特願)59−008945



第1図 実施例
TN17F1.gif

1. オゾン発生器

2. 安全キャビネット又は安全室

3. パスボックス

4. 廃水処理部

5. オゾン除去部(活性炭)

6. 空気

7. オゾン入気回路

8. オゾン排除回路

9. オゾン排除回路

10. オゾン排除回路

11. 大気