2006年12月19〜29日
インド・アンダマン諸島における第3次古地震調査
宍倉正展(海溝型地震履歴研究チーム)
インド領アンダマン諸島では2004年スマトラ・アンダマン地震時に地殻変動が生じた.その詳細と過去の地震の痕跡を調べるため,当センターと東京大学の合同調査チームは,これまで2回の現地調査(2005年3月と2006年3月)を行った.同諸島北西部では,隆起サンゴ(マイクロアトール)の高度測定や現地住人への聞き取り調査などに基づき,地震時に最大1.8 m隆起し,その後数ヶ月で余効変動により急速に0.3〜0.7 m沈降したことが明らかになった.この成果は最近,Kayanne et al.(2007; Geophysical Research Letters,Vol. 34, L01310)にて発表したので,詳細はそちらを参照していただきたい.
今回の調査では,東京大学から池田安隆氏,地盤財団から越後智雄氏,そして当センターから筆者が参加し,現地ではインド工科大カンプール校のJaved N Malik氏が合流した.日本からは3人という少人数で重い調査機材を多く持ち込んだため,成田空港でのチェックインの際には多額のオーバーチャージが発生したが,幸運にも航空会社のキャンペーンの適用により,ビジネスクラスへアップグレードでき,オーバーチャージ分がチャラになった.我々は珍しく(?)ゆったりとした移動で現地へ向かうこととなった
さて,今回の調査の目的であるが,第一は2004年地震時の沈降域において,過去にも沈降した痕跡を検出することである.これまで2回の調査により我々は,2004年地震時の隆起域において過去にも同様の隆起がくり返し生じていたことを示す化石マイクロアトールを発見していた.しかし残念ながら同諸島ではサンゴの採取,持ち出しが禁止されているため,年代測定が行えず,現状では古地震の履歴の解明は難しい.そこで今度は沈降域に目を付けた.同諸島南東部は,2004年の地震でおよそ1 m沈降しており(図1),沿岸低地では過去の沈降イベントを示す地層が堆積していることが期待されるのである.調査場所はアンダマン諸島の中心都市ポートブレアの近郊で,地震以前は水田として利用されていた耕地である.現在は沈降により地表面はほぼ平均海面付近まで下がり,高潮位時には海水が浸水する塩性湿地となっている.トレンチ掘削およびハンディジオスライサーを用いた掘削により,最大2.7 mの深度までの地層を観察することができた.ハンディジオスライサーは1.5 m長のものをハンマーで打ち込んだ.引き抜きには通常,三脚とチェーンブロックが必要なのだが,現地で雇った屈強な若者達は,素手でいとも簡単に引き抜いてしまい,我々を驚かせた(写真1,2).

図1 2004年の地震における破壊領域とアンダマン諸島の地殻上下変動と
今回の調査地点.(Kayanne et al., 2007に加筆)
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| 写真1 素手でジオスライサーを引き抜く屈強なインドの青年たち. |
写真2 得られたジオスライサーコア.インド初?の剥ぎ取りも行った. |
得られたコアやトレンチ壁面の観察の結果,泥炭質の堆積物から,海成の粘土へ層相が急変している様子が観察され,過去に沈降が生じていた可能性があることが明らかになった.また粘土層には噴砂痕も見られ,沈降イベント以降に別の地震イベントがあったことを示す.これらの上位にも堆積環境の変化を示す層相変化があり,今後,持ち帰ったはぎ取り試料の観察や年代測定から地殻変動の解釈を進める予定である.
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写真3 ニール島の富士山型離水マイクロアトール.鉛直方向に切断して成長線を解析すれば,隆起過程を知ることができるのだが...
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次に,今回の調査におけるもう一つの目的は,本諸島東岸沖に浮かぶニール島という小島の海岸段丘調査である.この島は2004年地震では隆起も沈降もなく,ほぼ安定していたのだが,衛星写真の解析によれば,長期的には隆起していることを示す海岸段丘が複数のレベルで発達していることが窺えた.実際に現地に行き,地形断面測量を行ったところ,少なくとも5つのレベルに区分できる段丘が確認できた.最高位の面は平均海面上6〜8 mに分布し,おそらく完新世に形成されたものである.また,現海岸付近では,段丘よりは低位であるが,2004年地震より前に離水した化石マイクロアトールを発見した(写真3).これは前述の隆起域で発見したものとは異なり,富士山のように裾を広げた形状を示しており,徐々に離水したことを窺わせる.以上の結果から,ニール島の段丘は,余効変動などによるややゆっくりした隆起によって離水してきた可能性がある.1960年チリ地震においても,余効変動によって,地震後数十年かけて最大約2 m隆起したことが明らかになっており(宍倉ほか,2004;活断層・古地震研究報告第4号),今後のニール島の変動に注目したい.
我々は今回も多くの興味深いデータを取得し,アンダマン諸島を後にすることになった.帰りは調査機材に加え,試料もあったため,行き以上に荷物の重量が大きくなったのだが,チェンナイの空港でのチェックイン時には,またしてもカウンターの係員の粋な計らいでビジネスクラスにアップグレードしていただき,快適な旅となった.
きたる5月の地球惑星科学連合大会では,連動型巨大地震セッションにおいて,隆起域のマイクロアトールの調査結果を茅根ほか,ニール島の海岸段丘の調査結果を越後ほか,そして沈降域での掘削調査結果を宍倉ほかが発表する予定である.