インド領・アンダマン諸島の調査
宍倉正展・鎌滝孝信・池田安隆・茅根 創・越後智雄
2004年スマトラ島沖地震では,インド洋沿岸での津波被害が大きく報道され,注目されたが,一方でこの地震に伴う地殻変動は意外に知られていない.日本からも地震直後から各地へ調査団が向かったが,おもな目的は津波調査であった.しかし当初から,余震域であるアンダマン・ニコバル諸島や,古地震学的に隆起の記録のあるスマトラ島西沖の島々では,地殻上下変動を伴った可能性が指摘され,衛星写真からも離水,沈水現象が窺えた.特にアンダマン諸島は,地震波の解析によって推定された震源断層よりも北に位置しており(図1),地殻変動が生じているとすれば,実際の震源域がさらに北へ延びることから注目された.

図1 アンダマン・ニコバル諸島の位置
アンダマン・ニコバル諸島への地殻変動調査は,地震直後から計画されたが,インド領であるこれらの島々への渡航には様々問題があり,すぐに調査に行くことが出来なかった.軍関係者や原住民のみが住むニコバル諸島は,インド人ですら民間人は入島が難しく,断念.アンダマン諸島は外国人の入島を許可しているものの,ビザ取得の他に特別な許可が必要であった.結局,紆余曲折を経て,地震発生から約3ヶ月後の3月19日〜27日に,振興調整費(一部,科研費)による調査として,東大の池田安隆氏,茅根 創氏,越後智雄氏と当センターの宍倉正展と鎌滝孝信の5人のメンバーがアンダマン諸島に渡ることができた.
アンダマン諸島は南北約400 kmに連なる島々で,主要な島は,狭い海峡で分かれる北部,中部,南部アンダマン島である.南部アンダマンのポートブレアが最も大きい町で,空港もある.このポートブレア空港へは,コルカタ(カルカッタ)とチェンナイ(マドラス)から週4〜5便で国内線が運航されている.我々はシンガポールからコルカタ経由でアンダマンへ渡った.
事前に現地旅行代理店のKoushik氏からアドバイスをもらっていたおかげで,空港では比較的スムーズに入島許可が得られた.現地では,ドライバーも含めて大人6人が乗れるミニバンをレンタカーとして予約していたのだが,空港で我々を待っていたのは,どう見ても軽自動車(しかもエアコン無し).窮屈な車に大人6人乗り込んで熱帯の島を移動することになった.しかし,今回Koushik氏には各所で細かな気配りをしてもらい,大変御世話になった.渡航前に彼から「お金を払うので日本でデジカメを買ってきて欲しい」と頼まれていたのだが,現地でのあまりのアレンジの良さに感動し,そのままプレゼントしてしまったくらいである.前置きが長くなったが,調査結果を南部と北部に分けて以下に述べる.
南部アンダマン
南部アンダマン南東部のポートブレア周辺では,衛星写真の解析から沈水していることが予想された.実際に現地に行くと,地盤の沈降により,沿岸の田畑や家屋が浸水被害を受けている様子が確認された(写真1).沈降量は港に設置してある潮位尺からおよそ1 mと推定される.一方,南部アンダマンの西岸では,沈水現象は見られない.むしろ,サンゴやカキといった生物指標,ノッチやベンチの地形指標とも,ほとんど地盤の変動がないか,若干の隆起を示している.なお,聞き取り調査から明らかになった津波高は,海溝に面しているにも関わらず,3 m程度であった.

写真1 地盤の沈降による浸水被害を受けた家屋
北部アンダマン
北部アンダマン西岸は,衛星写真から明瞭な離水現象が見られ,隆起が期待される地域である.少々頼りない木製ボートで沖合の無人島まで渡ると,見事な隆起サンゴ礁が目の前に広がった(写真2).通常,完新世隆起サンゴ礁は,離水から時間を経て風化し,かつて海面下で生息していた面影はない.しかし今回観察されたものは,つい昨日まで生きていたような非常に生々しいサンゴが,そのまま海面上に現れた状態であった.マイクロアトールと呼ばれる円形のサンゴは,低潮位の指標であり,その高度を計測した結果,およそ1.6〜1.7 mの隆起量が推定できた.このほか特筆すべきは,今回の地震で離水したものより古い,風化したマイクロアトールが,10〜30 cmの高度差をもって,いくつかのレベルに分布していたことである.これは過去に同様の隆起イベントによって離水したマイクロアトールが,死滅した後,地震間の沈降で元へ戻った結果,わずかな隆起分が残留していると推察される.すなわち過去の地震の履歴が解明できる可能性を示している.

写真2 隆起サンゴ(マイクロアトール)の調査風景
今回,島へ渡るボートの船頭をしてくれたのは,我々の宿泊したMayabundar(北部アンダマンと中部アンダマンの境界に位置する)の民宿のオーナーだった.その民宿前に広がるマングローブ湿地では,彼の話によると,地震直後の大潮の満潮位が地震前と比べて大幅に下がったが,地震から3ヶ月経った最近の大潮の満潮位は,だいぶ回復しているとのことであった.すなわち地震時に大きく隆起したものの,その後の余効変動で沈降していることを示唆する.
以上の調査結果をまとめると,北部西岸で大きく隆起,南部東岸で沈降しており,島が東南東方向へ傾動したことが明らかになった(図2).すなわちアンダマン島直下で断層が活動したことは明らかである.一方で,沿岸で津波高を測定したところ,いずれも2〜5 m程度で,スマトラ島のような大きい津波被害はない.また,地震動による被害もほとんど見られなかった.これらの結果は,今回の地震の震源過程を考察する上で非常に興味深いデータである.

図2 アンダマン諸島の地殻上下変動と津波高の分布
アンダマン諸島は,外国人の島内での行動が制限されており,原住民の保護区など,立ち入り禁止区域が多いため,島の広域的な調査は難しい.また,サンゴ類の持ち出しなども規制され,今後の古地震調査には課題も多い.しかし,この地域には,非常に興味深い現象が地形・地質に数多く記録されており,少しずつでもそれを解き明かすことができるよう,調査を継続する必要がある.なお,帰りのコルカタへ向かう飛行機から,眼下の隆起した島々をカメラで撮影していたところ,客室乗務員にこっぴどく叱られてしまった.立ち入りどころか空からの撮影も禁止らしい.